美しいくしゃみ
水宮うみ
夏のなかでは、汗がべとべと出て、どうしようもなく自分が生き物だと実感させられる。
だから夏が好きで、ほんの少しだけ嫌い。僕は僕が生き物だってことがほんの少しだけ嫌い。
この季節になると、いつかのある日、放課後の図書室で、ひとり汗を垂らしながら二十億光年の孤独を読んだことを思い出す。
あの詩のなかのくしゃみは、僕が今まで見たなかで一番美しいくしゃみだった。美しいくしゃみなんて詩的な言い回しを感想に持ったのも、あのときが初めてだった。
ひとりの詩人の孤独が、人を束の間詩人にさせる。
そんなあの日のことをふと思い出しながら、今日も鼻をむずむずさせて、僕は満天の孤独を見上げる。
星の瞬きを言葉にしたかのような、僕の孤独を語ってくれたかのようなあの完璧な詩がとてつもなく好きで、ほんの少しだけ嫌いだった。