雨に囲まれた待合室
塔野夏子
雨に囲まれた待合室に坐っている
だいぶ長いこといる気もするし
そうでない気もする
入ってくる人もいる
出てゆく人もいる
以前もここで
待っていたことがあるような気もするし
ないような気もする
何を待っているのか
なんとなくわかっているようで
なんとなくわかっていない
ひょっとしたら単純に
雨がやむのを待っているのかもしれない
待っているそのことが出現してはじめて
それを待っていたことを知るのかもしれない
いずれにせよここは
待合室であることだけははっきりしている
ほんの小さなきっかけかもしれないし
劇的な出来事かもしれないが
とにかく何かにここから連れ出される
そのとき ここに居合わせた人に
微笑んで 席を立ってゆけることを
ぼんやりと願いながら
雨を眺めて
坐っている