サーカス
ヒヤシンス


 サーカスが去って行く。
 ネルソン坊やが月に向かって口笛を吹く。
 ジェームズ夫妻は互いを罵り合う事で生への愉悦を感じている。
 駄馬が一頭、自分の運命も気にせずに草を食んでいる。

 口髭の座長が鞭を鳴らして唾を吐く。
 道端の古びた男のラジカセからトム・ウェイツが流れている。
 誰かの吐いた煙草の煙に夜空が白く光っている。
 バラードの似合わない夜だった。

 エリックはお人好しだ。
 サムスンはお調子者だ。
 イカルガは自分の故郷を持たない。

 今夜のショーは終わったのだ。
 不思議な晩にギターは嘶き、いつしか月は赤く染まっている。
 サーカスが去って行くのだ。
 
 
 


自由詩 サーカス Copyright ヒヤシンス 2017-06-17 02:56:58
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