浮上するサイレン
霜天

あたたかい あさ

濡れた地図の上に書き込んだ名前は
滲むように、消えた
始まれない私は
いまだにまるい船の上です


 警笛は
 遠い雲のこと
 進まずに消えるのは
 あの空へ


破れかけの地図を
後部座席に貼り付けて
静かなアクセルを、踏み込む
二つに分かれた景色の中で
いつまでもこの足
引きずっているものは
たったひとつの
足首を洗えば軽くなる少しだけ
そのくらいの


 踏み込んだ
 景色は遠く
 白と黒とに
 嗅ぎ分ける音


浮上するサイレンのようなどこかから
私の、私たちの、耳をふさいだその奥から
湧き上がる回答は、着地点を探すことに必死で
もうどうでもいい喉につかえたものを
吐き出すためのサインを待っている
積み上がった意識は崩されないようにと
心音にさえ怯えて動けない
始まれない私のつかえたままの音
どこかから、遠くから、遥か
呼びかける、呼び寄せる
朝の音
はじまりの


 透明な
 ように見せ掛ける
 朝のそら
 戸の開く音


いってきます
その奥に呼びかける
いってきます
響いた
つまずくような仕草で駆け出した姿
そこからの


いってきますと湧き上がるどこかから響く音
サイレンの、ような


自由詩 浮上するサイレン Copyright 霜天 2005-03-10 00:37:01
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