初夏に。
ヒヤシンス


 山の麓の小さな村に今年も初夏がやってくる。
 黄昏時の老人が野菜を背中にしょっている。
 雁の群れが西の空に飛んでゆくのを目で追うと、
 彼方の空には一番星が瞬いている。

 憧れの初夏。
 青春の初夏。
 時を経ても未だにワクワクするこの気持ちは何だろう。
 懐かしいものはやがて大切なものとなる。

 音沙汰なしのあの人は元気だろうか。
 父に先立たれた母は元気だろうか。
 思い出が増えてゆくにつれ悲しみも増えてゆく。
 
 この村は初夏を迎える感情で溢れている。
 眩しい夕焼けの中、私の心も満たされてゆく。
 初夏の解放はいつでも私の胸を打つ。 

  

 


自由詩 初夏に。 Copyright ヒヤシンス 2017-06-10 07:01:04
notebook Home 戻る