終電




皮脂で汚れ切った車窓越しに
遠ざかる
街の灯を眺めている

真っ当に生きて
正しく幸せになることが
こんなにも簡単だと気付くまでに
随分と
遠回りをしてしまった


片道分の切符と
一人分の体重が座席に微睡んでいく

揺り起こされるまで
最後のアナウンスが流れるまで
この電車が止まるまで
どこまで
この身体で行けるだろう

雨が上がって
いつか
帰り道さえも忘れてしまった頃に
私はどこにいるのだろう


日々を乗り過ごして
満たされる錯覚に沈む

空が好きで、クラゲが好きで
ほんの少しのスパイスを夢見るような
普通の女の子に憧れていた

踏切の向こうでカメラを構える
あれは、いつかの私だろうか


揺れる
一人きり、取り残された車両に溶け落ちて

誰も居ないホーム
行き先を無くした電光掲示板
シャッターが閉まって
そうしたら
どうだって、終わりは来るのだ

名前と
身体と
思い出と
鞄の中身と
明日の予定と
思い付く限りを置き去りにしながら

私が
運ばれていく






自由詩 終電 Copyright  2017-06-08 16:57:57
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