水辺のまぼろし
梓ゆい

渇いた田んぼに流れる鉄砲水
今年の田植えが始まって
いくつもの麦わら帽子があちらこちらに見えてくる。

田んぼの脇の水路で汚れた手足を洗うと
流れてくる水が冷たくて気持ちが良い。
少し高く上った太陽の光りで熱くなったから
麦わら帽子を水に浸して
深く深く被り直す。

おーい。と呼ぶ隣の家のおじさんの声。
駆け寄った母は紫の風呂敷包みを受け取って
綺麗なお辞儀を繰り返す。

遠くの方から田んぼの端と端を行き来する父の後ろには
足跡の代わりに小さな苗たちが
行儀良く並び始めた。

たわしを手にプランターを洗い
遠くを走る車を眺めた水路の中で
私の時間は隔離された場所へと移動をした。

汗が流れ落ちる最中
心の行き先は
髪を揺らす風と水の流れが知っている。


自由詩 水辺のまぼろし Copyright 梓ゆい 2017-06-08 09:16:36
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