ただいま
梓ゆい
暖かな湯気が立ち上る南瓜と小豆の煮付け。
薄く切った胡瓜の上に鰹節をのせたら
慣れた手つきで父がぽん酢をかける。
こんなものしか出せなくてごめんね。と
母はみそ汁をよそい
今焼けたばかりの太い秋刀魚を食卓に並べて言ったのですが
私はそれだけでもう充分なのです。
終電間際の電車に乗り
疲れきった人々と共に寿司詰めにされて
ようやく降りた最寄駅のホーム。
横を通り過ぎたスーツ姿の男性は
電話を片手に声を弾ませて家路へと急ぐのに
私は疲れた身体のまま24時間営業のスーパーへと向かい
値引きシールとのにらめっこを終えてから
弁当と惣菜を籠に入れます。
地元山梨に帰り
実家の玄関を開けてダイニングテーブルに向かえば
自然と涙がこぼれてきます。
いただきます。と手を合わせ
向かいの席を見れば
たくさん食べなさい。と取り皿を差し出す父と
飯を盛る母の姿。
その光景は
普段一人で食事をする私にとって
言葉に出来ない贅沢なのです。