ただいま
梓ゆい

暖かな湯気が立ち上る南瓜と小豆の煮付け。
薄く切った胡瓜の上に鰹節をのせたら
慣れた手つきで父がぽん酢をかける。

こんなものしか出せなくてごめんね。と
母はみそ汁をよそい
今焼けたばかりの太い秋刀魚を食卓に並べて言ったのですが
私はそれだけでもう充分なのです。

終電間際の電車に乗り
疲れきった人々と共に寿司詰めにされて
ようやく降りた最寄駅のホーム。
横を通り過ぎたスーツ姿の男性は
電話を片手に声を弾ませて家路へと急ぐのに
私は疲れた身体のまま24時間営業のスーパーへと向かい
値引きシールとのにらめっこを終えてから
弁当と惣菜を籠に入れます。

地元山梨に帰り
実家の玄関を開けてダイニングテーブルに向かえば
自然と涙がこぼれてきます。

いただきます。と手を合わせ
向かいの席を見れば
たくさん食べなさい。と取り皿を差し出す父と
飯を盛る母の姿。
その光景は
普段一人で食事をする私にとって
言葉に出来ない贅沢なのです。


自由詩 ただいま Copyright 梓ゆい 2017-06-08 08:54:51
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