冬のジュゴン
藤鈴呼


二つに分かれた道の
内側を 歩いている

外側は 危険だ
あちら側は 強い者の通る場所だ
そう 教えられた

子供よりは 大人
女性よりは 男性
道幅が どんなに狭くっても
弱い者を護る心が
静かに形成されて行く

何時からだろう
年寄りの知恵が 本物ではなくなったと
感じるように なったのは
剛腕だと尊敬する視線が
力付くで従わせる凶器だと
思い込むように なったのは

年齢なんて 関係ないと
豪語して 息を止めた

確実に 物を知っている者は居る
長く生きた分
それは 当たり前だと
誰かが差す後ろ指を 網に捉えては
海に放つ

捕まらぬジュゴンを
何処まで追い求めれば
人魚に 近付けるのだろう

ただ 存在を ひけらかすだけ
名刺の肩書きよりも
明治のチョコレートの方が
甘い分だけ 真実に 近付いた
空腹の心を 満たしてくれていたんだ

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自由詩 冬のジュゴン Copyright 藤鈴呼 2017-06-07 10:15:48
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