もう君の声も聞こえないほど
かんな




貝がらが君の右の手から放たれて、しなだれた花びら一輪を左の手から掬った。泣いてしまう前に話そう。潮の満ち引きのこと、涙の渇く早さのこと、月の光の明るさと甘さのこと、君との足あとのこと、私の行き先のこと。かばんに詰め込んで旅に出たいから。とおくへとおくへと。もう一度だけ話をしよう。いくども積み重ねたけれど崩れていく積木のように、いくども塗り重ねた末に黒ずんでしまった現実のように、いくどもいくども涙を流したことは全く意味がなかったように。君の足あとにすり減った踵のような私のおもいを、すべてすべてかばんに詰め込んだら海に流してしまおう。旅に出よう。とおくへとおくへ、もう君の声も聞こえないほど。




自由詩 もう君の声も聞こえないほど Copyright かんな 2017-06-06 18:43:05
notebook Home 戻る