優しい男
花形新次

いつものバーで
いつものバーボンオンザロックを飲みながら
真剣な表情でシェーカーに
アイスとベルモットを入れる
若い女のバーテンダーを見ていた
少し離れたところに座った男の
「きみのオリジナルカクテルを」
というキザなオーダーに応えているわけだ

最後に若い女が後ろを向いて
何かをシェーカーに入れた後
そのままシェイクして
男の前に置いたカクテルグラスに注いだ
薄紅色のカクテルだった

若い女はグラスを男の方に
ゆっくり差し出しながら
「カクテルの名は・・・
マイ・サラサーティです」
と言った

「ノー・サンクス」
男はポケットから出した札を
カウンターに放って帰って行った

店には若い女と俺だけが残った
若い女は俺の方を見ながら
口を開いた
「マイ・サラサ・・・・」

「イナフ!!」

最後までは言わせないぜ
だって俺は
すこぶる優しい男だからな




自由詩 優しい男 Copyright 花形新次 2017-06-05 22:07:29
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