菜の花が見えない
藤鈴呼


カモフラージュされてしまうほどのオレンジ
大抵の人間が「夕陽」と呼ぶ現象が訪れる頃
少し冷たくなった風が そよと吹きかければ
花びらは ゆっくりと お辞儀をし始める

隣に似合うのは かすみ草くらいだが
あろうことか ここに自生するは ネコヤナギ
昔 防波堤が出来る手前で
土に映えていた 必死の形相が 愛しくもある

もふもふとした毛並は 能面のよう
小さな枝の中に刻まれた年輪が
誰かの表情のようにも思え 身震いがした
未だ強い北風から 逃げるように走った帰り道
世界が夕暮れに包まれる寸前

黄色の元気一杯さが 憎らしかった頃
春の倖せそうな色合いが 大嫌いだった
梅も桜も 似たような香りに思えた
桃色のチュチュを着た娘が 格好の標的
握り締めたダーツの矢 虚空に放たれた

芝の色が 美味しそうな黄緑に染まっても
菜の花が 見えないんです
あれは 何時の時代の花でしたか
昔から 在るのですか
牛に問いかけても 応えはモウ
NOW NOW 溜息ばかりの 牧草地

カモフラージュだらけだった筈のオレンジ
例えば 高速の上 
夕闇が合図
アイスクリームがとろけるような季節に
汗ばむ肌を 唯一冷やすことが出来る存在

見付からぬ菜の花を おひたしにして
此の際 食べてしまおう
辛子和えにしてみても 良いかも知れない
パクリ
何も考えずに 頬張ったら
もしかして 失くした菜の花が
微笑んでくれるかも しれないから

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自由詩 菜の花が見えない Copyright 藤鈴呼 2017-05-31 09:07:52
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