Here comes the spring
るるりら

はじめに この作品は、澤あづささんが企画しておられた紅月さんのお誕生日によせて 紅月さんの作品にお返詩しようという企画で、書いたものです。
http://adzwsa.blog.fc2.com/blog-entry-31.html

そして、本日 紅月さんのお誕生日がやってきました。いまや、夏は来ぬです。
山からくる小川に スイカズラがたれさがっています
夏の初めをしらせる花を 忍冬と最初に書いたのは
ものごとのほんとうを 知る どなたかだったことのでしょう。
スイカズラは忍冬と書きます。
この初夏の花は、ながい枝の節のすべてに 二輪の花が咲いています。
まるで こいびと席のように いろづいて
冬を耐えた花が 寄り添いながら咲いて、まあたらしい風にゆられています。

春の間 私はは、この季節に生まれた方への言葉をさがしていました。
はずかしそうに 咲き始めた忍冬。
ああ この季節こそが あなたがほんうに祝福されるべき季節なのですね。

わたしの拙詩は 春の作品になりました。
春に失われた時間が夏に向かうように、変わらないものはなにひとつないけれど
澤あづささんの紅月さんを祝したいという心に 寄り添おうとしたことは、私の宝物なので
こちらのサイトにも 残します。春の作品しかかけなかった私をおゆるしください。
この季節に 生まれた詩友を想うのすべての人に 幸あらんことを








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Here comes the spring http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=328445
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【Here】
猿猴橋のたもとで、河童が死んだ。嘴の黄色い河猿だった。朝靄が立ち込めて 桜は感覚器をあらゆる方向に のばして花霞の間を、まるで水の中の風景のように時間軸を狂わせていた。幼いころから当たり前のように河童は微笑みながら思惟し、わたしの頭に 皿の代わりに百科事典をのせて歩くことで 均衡の美の先の夢想をさせた。
河童の関心事は もっぱらヒトとはなにであるかであるからうつくしく歩く。
河童の言葉は いつもどこか艶めいて
飛沫でも宿っているかのようだった。
頬がほのかにまだあかい河童。

彼にとってヒトの暮らしがどのようなモノか。 わたしの祖母に大切に育てられた幼いころの河童は伝説になるほどの
愛らしさ。青春時代は大勢の雌のヒトにモテモテだった。

それだけに憎まれもした。子をなしたがヒトのような育て方が分からず 姪だということになっている私に、ヒトとは何であるかを問うのであった。百科事典は皿として以外には読む楽しみも、あると教えた。
かれの教えは 川のように流れとおい海の見渡せた。

【comes 】
彼が問いつづけていたヒトとはなにであるか。恋のつややかさと幽玄についての 果てしない憧憬のまなざしが瞼の間から ほんのわずかの隙間で醤油のように 見つめていた

彼の皮膚は すっかり骨と皮のようになりおだやかな顔をして 逢いたいヒトのことを上手に生き難いヒトのことを待っていた。

故郷の来現。

【the】
やがて、彼は呼吸をやめた。
旅支度に白い足袋をはくと、みずかきで泳いだ日が 蘇ってきた。胸のところに冥銭を渡されて 彼は棺は灰色の霞の中を流れてゆく

【spring】
満開の桜は今が盛り。 葉桜になるころに、わたしは「きざくらあぽん」と 歌いだすだろう。
いのちが どれだけ流れただろう 無数にながれた。祖母が幼い我が子を何人水子として供養してきたのか不明としたくなった頃に 河童は祖母の我が子としてやってきた 
やがて 祖母は私の母をみごもり、いずれ わたしが生まれた。

わたしは河童を忘れない。

ヒトとはなにかを問いつづけた河童。
ヒトの描く妖艶な河童の絵が とおくで ゆれて
河童のひきだしからも 春が とびだしてくる






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【Here】みな底の母子像  『ピエタ』より http://bungoku.jp/monthly/?name=%8dg%8c%8e
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「どうか、すこしあまがみさせてください」
かつてのやわらかな はだのあなたは 
もはや形骸化された象徴のピエタ
みな底に沈んでいる 波の縞模様があなたの頬に落ち
しだれ傾いた腕は重く 
波はあなたを ゆるがすことはできず
ゆれるのは
母の体にもある 海藻だけ


母は
あなたを抱いています
母は
まぶたをとじ さえずりのような あなたの笑いを 
探しています。そうです。さがしているのです。

元居た場所を わすれてよいですよ

忘れることで おもいだされてゆく
時間のながれが海流によって おしもどされてゆく






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【comes 】授かる 『Leafeon』より http://mb2.jp/_prs/6657.html
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どれだけの月日がめぐったのか
はるかな年月は永久に近い つかの間に
おやすみの挨拶ともに
桜さくらと さかしまに上空におちる
蝋のあかりすら はなびらのように さくら

川は 朝もやの中の花曇り ふたりは
むつまじいおしどり
ひらいてみせておやりになって
おんなのアリアで
るつぼと過失のうずまきから 紡がれた
とおい きれはしが おとこを 彩色し

さいしょくは おとこをおとこにして
おとこの鮮やかな赤い羽が、もやそうとするのは おんな

おんなが紡いだ紡いだ おとこと
おとこが 睦いだ おんなが
萌える さくらに
かくされながら
止まるように流れてゆき
冥銭すら ちらときらめき


ゆるされるあいだの
むつぎごと
かわはじかんにとじこめられてぬまになり
ふたりのうえた たねが
ねむりながら また ひらく



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【the】花 『akatsuki』より http://critormenta.blog.fc2.com/blog-entry-12.html
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喉の奥の胸腺が 鰓だったころのなごりであるように
ヒトは、水から 這い上がってやってきた
必要なのは、 超える勇気


ほら
ルック アット ミィ 見てごらん セカイは、
どれだけのルクスでできているのかしれない

過去は暗い底なし沼
沼のほとりに這い上がれば
どうだ! 一斉に翻っている


闇雲に過剰を太鼓を連打するかのように
おさなごのこころのままに
自身のオールを漕いで漕いで漕ぎつかれたその先に

絶叫のように咲いていたのは
何の花だろう。the フラワーず。
沈みつつある舟の上でまるで踊るかのような動きしながら見た
たましいの陶酔がほどけて咲く無数の花びら 
みんなさかしまに天に落ちようとし


【spring】【spring】 【spring】 【spring】 【spring】 【spring】【spring】
   嗚呼、満月が あかく燃える


自由詩 Here comes the spring Copyright るるりら 2017-05-26 12:51:45
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