白とける白
木立 悟
冷たい夜に
むらさきとむらさきが向かい合う
岩の径を
音だけがすぎる
鉱と鉛の紙
指を回る火の震え
小さな鈴の音をたて
砕けるように消えてゆく
空の一部をちぎり くるみ
花ではない花は咲きつづけ
粉は氷 血と水と銀
重なりつづける羽だけの生きもの
蒼と黒の階段を
燃え上がる背が静かにのぼり
角を曲がる孔雀の尾
三つの手のひらに持ち去られる冬
霧の坂道を
人とけだものの影がゆく
霧はただ中空を巡り
弦の音を湿らせてゆく
矢のかたち
矢の光のかたち
水に溶けながらなお
かたちであろうとするかたち
蒼と黒の街のなかに
鉛と鉱の紙はたなびき
白い手は忙しく行き来して
昼と夜を混ぜ合わせてゆく