憂鬱
ヒヤシンス
海を見ていた。
港を行き交う人々の足音を聞いていた。
岸壁に寄せる波の音に海鳥たちの鳴き声がかき消されてゆく。
視覚よりも聴覚が敏感なそんな午後だった。
海の色は藍色。
空はどんより曇っている。
何よりいくつもの足音が宙にかつーんと浮かんでいる。
気の狂いそうな音だった。
悩みや苦しみが海の中からこちらをうかがっている。
人々の背負っているものが曇った空に反射して僕を押し潰そうとしている。
寸分の気の迷いが今の僕にはつらいのだ。
光さえ出てくれれば。
僕の魂が欠けてゆく。
足音に紛れて通り過ぎた昔が蘇る午後。