宇宙暗黒物質言語域で何度も私ではないと遺棄されるものとは
北街かな
かりそめの空間のなかで薄明るい滲んだオーロラを着ている
着込んでも着込んでも熱は一向に下がる気配がなく
ずっとひざのうえで幻想の猫が鳴いている
にゃーにゃーにゃー、
にゃー宇宙は
北極星の向こう側のアルファに向かってオメガが永遠に後退するように
最初から最後まで不可解な言語に埋め尽くされている、
端から端まで無限の向こうまで言語の暗黒物質がぎゅうぎゅうに詰め込まれて嘆き叫びずっと孤独を悲しんでいる、
わたしはだれだ、ここはなんだ、生まれた疑義はどこだ、この擬態に覆われた真実はこれか、
この空気と夜闇との差異はなんだ、繰り返される擬似行為の果てしなさに何の帰結をもたらすというのか、
どこかにほんとうの宇宙があるのならオメガからアルファに向かって帰納的に語りつまびらかにしてくれたらいい、
猫は地球型のきれいな光球の頂上で青く波間のように光り、軽やかににゃーと鳴いている
その生命的な歌をいっそ骨だけの腕で抱きしめようとしたが昇天の後光のなかで一瞬にして闇に消えた
安らかなものはこのようにして常にしてごく儚くて実際に、実在時間が極めて短い
背後でまた電球が割れている
火星がこうもりに衝突して
金星がぱきんとふたつに割られている
どこにも安息の日々は見当たらないぎゅうづめの宇宙のなかで
意識の意志の実在の証明行為をずっと発語する計画的生誕作業がずっと続いている
肉体的にはとっくに生まれているのにいちどもきちんと生まれたことがないんだ、
どれだけの言葉を尽くしてきたのか指先は文字だらけで霞んでいて何もみえない
振り返っても仰ぎ見ても深く見下ろし覗き込んでみても不在に覗き返されるばかりで
どこまでも空洞がひろがっている
トンネルにこだまし続けるなぞかけの輪唱が
複雑怪奇な鍵穴に結晶して
何を発言しても解き明かせない牢に未完成の生命をずっと閉じ込めている
なぜ言葉はここに在るのかと猫はしっぽだけになり
宇宙は壁際でずっと膨らみ続けているんだ
それは完成した肉体の姿を象ろうと必死に物理法則を打ち立てていて朝から晩までやかましい
黙らせろ
鳴くな
私はオーロラのすその影の残滓をかき集めてそっと隠れるように眠って
優しげに鳴く猫を寄越せ、そうでないと人にもなれぬのだと檻の格子をつかみ
心臓の中で斜めに潰してエクサスフィアのごみに変えた
にゃーにゃー、にゃー、
宇宙は
ずっと外耳の縁で生き生きと猫が鳴いている。