朝食
はるな


愛している
眠りのふちに
ぶらぶら腰かけて
バタをべったりつけたパンに
蝶々をはさんだ夕食
さむい土地であなたは育った

そこではさくらも連翹も木瓜も
いっぺんに咲き
いっぺんに散っていく
若草色が登っていく山々に
ときおりふうわりと桃いろが置かれ
春の山、と言う
あなたは
わたしとはちがう空気のなかで育った

愛している
愛しているといいな
愛したいと思った
わすれたくないと思った
あらゆる間違いのなかで
それきり真実のような思いを
いまはもうよくわからない
幸福の裾は
すべるようになめらかで
いつまでも座っていられなかった

波はもう
私たちを甘やかさない
かたむけたコップ
干からびたくらげ
愛さない
というのももうわからない
満ちたままの潮をかかえて
わたしは
海のない土地で育った

傷ついたテーブルをはさんで向かい合う朝食
カーテンのない部屋に
朝陽が散らかって
うるさいねえと笑いながらパンを食む
あなたを愛さなくなりたいと思う
もういちど溶けあうために
あなたになってしまったわたしを全部剥ぎ取りたい




自由詩 朝食 Copyright はるな 2017-05-06 22:32:01
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