帰る(五月雨降られ)4
AB(なかほど)

おとなの字じゃないから
と口をとがらせたとき
ルーズリーフに
野花が咲いたのかと思った
息づかいのリズムで
少しだけゆれる髪と
同じようにさらさらと走るペン
の後に花が咲いたのかと
あの日から
探しているつもりはなかったのに
土手を歩く僕の足元から
上流に向かって咲き始めた君の花が
視線を霧島に向けさせ
その川の「流れける」が
やっぱり国文研に行かなきゃ
と言った君の探していたものを
ようやく思い出させた
靴を履いているうちにぽつぽつと降られて
ああもうっ て言った君の
探していたものは
ここにあるんじゃないのか
日向の山々に降る雨が
百年かけて大淀川になる
ゆっくり歩けばよかったんだ
たんぼに水をはり
やがて田植えがはじまり
その水面をわたる風のように
なにげなくやさしく
そばにいればよかったんだ
こいのぼりが泳ぐ空から聞こえてくる声に
うつむいてしまうと
雨のにおいがしてきて
江田、住吉、伊勢とまわって
砂浜に腰をおろし
おれそうな枝でもう帰るよと
書いたその後にひとつだけ
君の花が咲いた
もう帰るよ
それは君の町ではないのだろうけど
もう帰るよ
どこへ帰れるのかもわからないけれど
もう少しで降ってきそうだから
帰るよ


もう降らないのかもしれない
もう降っているのかもしれない


自由詩 帰る(五月雨降られ)4 Copyright AB(なかほど) 2017-05-05 16:02:51
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