神様の時間
青井

夕餉のおかずの買い出しに
老犬を引っぱるように散歩へ出て
明日の予定に思いを馳せるともなく馳せながら
路傍に伸びる植木の影に目をやってふと
いま自分が神様の時間の中にいることに気付く

神は遍在する
黄昏に広がる薄闇のように
それは遠く霞む空に宿り
木々をそよがす風に宿り
犬の鼻先に漂う焼き鮭の香りに宿る

町角に降る五時の鐘の音に宿り
打ち捨てられた自転車を包む錆びに宿り
ふいに立ち止まり途方に暮れた足先に宿る
本当は何もかも満たされているのだ
神という名の空白に

美しい音楽の調べにも
雲間から差した陽の光にも
神の気配は満ち満ちている
すべてが神の賜物なのだが
その実 神はどこにもいない

ただ時間だけがある
壮大なまでに充実した空白
虫一匹 草一本 風一つない永遠の荒野
救いは無い 裁きも無い
神様はひとになんぞ目もくれない

電信柱の先端で頻りにカラスが鳴いている
犬が自動販売機の陰に小便をする
許されることも 報われることもなく
すべてはただそこにある
黄昏に広がる夕映えのように

夕餉の支度が待っている
明日は銀行に行かねばならない
種々の用事に生かされながら
できるだけ丁寧に暮らしを立てていく
時間とは流れ去るもの と自らに言い聞かせて

途方に暮れたままの足先で
訳知り顔の犬がくしゃみをした


自由詩 神様の時間 Copyright 青井 2017-05-05 14:48:37
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