花残り月
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脇目も振らずに走ってきたよ
余所見をしている余裕はなかった
家と会社を往復するだけの毎日
ケースに入れたままのギター
若者の音楽を受け付けなくなって
大好きな歌も歌えなくなっていた
しばらく連絡を取っていなかった
あの人のことを思い出したのは
病院からの電話を受けた後
いつでも会えると思っていた
あの人に残された時間は僅か
気付けば三月が過ぎていた
桜の花びらは散る瞬間が一番美しいというけれど
汚く萎れてしまっても夏が来るまで咲いていてほしい
桜の花びらは散る瞬間が一番美しいというけれど
小さく萎れてしまっても秋が来るまで咲いていてほしい
久しぶりに顔を合わせたのだから
文句の一つも言えばよかったのに
どうして謝ったりするんだろう
見違えるほどに痩せてしまって
きっと物凄く苦しいはずなのに
どうして笑ってくれたんだろう
いつでも会えると思っていた
あの人に会えるのはあと僅か
四月の二週目が過ぎていた
桜の花びらは散る瞬間が一番美しいというけれど
汚く萎れてしまっても冬が来るまで咲いていてほしい
桜の花びらは散る瞬間が一番美しいというけれど
小さく萎れてしまっても次の春まで咲いていてほしい
病院からの最後の電話
脇目も振らず走り出した
もう一度あの人に会わなきゃ
桜の花びらは散る瞬間が一番美しいというけれど
小さく萎れてもいつまでも咲いていてほしかった
桜の花びらは散る瞬間が一番美しいというけれど
それを見ることはできなかったから確かめようがないな
全てが終わって病院の駐車場
いつもは暗くて見えなかった
桜の花はずっと咲いていた
気付けば四月もあと僅か