その街は
もっぷ
ゆるしてくれる他様などいない姿になって街に出よう
あらかじめ悟っていられるだろう
大雨の後の泥濘があれば選んで歩こう
泥まみれのありさまになってみれば
初めて得るあたたかな心持ちに違いない
他様への言い訳ならば
ほら見てくださいこんなですから
自らへは労いを
ほらいまおまえは理を持って汚らしい
そんな嬉しい泥濘があるはずもないが
何もかもの私を閉ざしてみれば
いつかわたしは内も外も私らしく
過去の多くの過ちのいくつかだけであっても
忘れてください忘れてください
ほら見てくださいこんな莫迦ですから
莫迦なのですから誰も引き止めないでください
たとえばたとえどこへ行く切符売り場を探そうと
でもたぶん片道分しか手持ちがありません――という
かすれ声にさえも振り向かれずに
そういうふうに訪ねてみたいそこは父さんのお墓のある街
いったいどこなのか何一つ知らないままに
実はきっと渋谷なのだと決めてみたい
そうそう広尾の日赤でしょう
その敷地の隅っこにたったいま咲いている
菫でしょう
長い旅をしてぐるっと巡って辿り着きました
わたしの故郷ですと他様に紹介する病院の建物と
最も近しく並んで咲きたい花のその下にこそ父さんの骨は
いっぱいまとまって埋けてあるのでしょう
長い旅をしてぐるっと廻って辿り着きました
こんな姿でしたからここまでも見逃されました
本当は
見逃したのは自らを縛っていた私自身だったのです
本当は何もかもを最初からよく判ってはいたのです