それでも料理は嫌いじゃないのです
そらの珊瑚

冷凍フライドポテトを油で揚げる
わぁお店のみたい
美味しいね
なんだかとても評判がいい
ちょっと複雑
前にもこんなことがあったっけ
いつもは手作りするマーボー豆腐だけど
レトルトマーボーを使って
何食わぬ顔をして
食卓に出したところ
わぁお店のみたい
美味しいね
なんだかとても評判がよかった
けどちょっと複雑

食べてみればなるほど美味しい
材料をちまちま切ってそろえて
調味料もブレンドして
あの手間と時間は一体なんだったのだろう
美味しく出来るのは時々で
大抵はまあまあ食べれる味ときてる
もちろん不味い時もある
我ながらよくこんなに不味いものが作れると
がっかりすることもあるけれど
残してはいけませんと
小さい頃から刷り込んできた呪文のおかげか
不味くても子どもは食べる
だから作った私も残すことは出来ず
夫はソースなどをかけたりして誤魔化しつつ食べる
私がいつかいなくなり
子どもたちがおふくろの味なんてものを恋しがったなら
願わくば花の咲くころ
差し出してあげる味は
たぶんそんな失敗作という思い出だろう

羽生くんだって時々ジャンプは失敗するじゃないか
だけど
失敗したからってそれがなんだろう
失敗して点数が低くても
それは彼を一ミリも損なわない
ロボットじゃないのだから
失敗したり成功するのが人間だから
紙一重で闘っているその
孤高の場所は
いつだってキラキラしてる

愛情を込めましょう
そうすれば何でも美味しくなりますと
誰かがいう
眼には見えない愛情がふりかけられた料理は
化学変化を起こして美味しくなるのだろうか

冷凍フライドポテトを一袋分揚げたあとの油は
得体の知れない白いものが浮いてギラギラしてる
自分でじゃがいもを切って揚げる時には
決して出なかったやつだ
誰か教えてほしいのです
あの正体は一体なんなのか
冷凍食品工場のロボットの愛情だとしたらどうしよう
その完璧さから比べても私は勝てないだろう
もし私に愛情があるとしたら
サラッとスルッとしておまけに透明で
熱を加えたら気化するので
誰の舌にも気づかれないと思うのです
空気より軽くなった愛情は
台所の換気扇の網をくぐり抜け
風に乗り
樹々を渡って
海へ出る
そうして
願わくば花の咲くころ
ここへ戻ってきたいものです


自由詩 それでも料理は嫌いじゃないのです Copyright そらの珊瑚 2017-04-22 09:54:09
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