知らないわたしと知ってるわたし
薔薇の人


どれだけのことを忘れたならば

わたしはソレを思い出せるのだろう

ソレに対して抱いていた感情は

喜怒哀楽だけではとても足りなくて

不足を思わせない大きなソレは

世界のはじまりのようなもので

それなのに なのに 何故

もし今だに存在しているのならばと

ソレがどこにあるのかも分からないけれど

絶望でもいい

叶うなら希望があればいい

わたしはもう一度ソレを知りたい

考えて 自分探しの旅にでた

そっと静かに瞼をおろし五感のひとつを閉ざす

一面の暗闇に支配される

全身を巡るわたしの中のわたしではないソレを

感覚だけで探してみる

其処ら中に転がる記憶に惑わされながら

暗闇の奥へと意識を沈ませていく

ゆるゆると闇の流れが変わるのを感じて

闇に飲まれる恐怖を覚えながらもわたしはまた深くへ沈んでいく

その先にあるのはきっと絶望なのだと

そう確信せざるを得なかった

閉じた目から涙が頬を伝うそのとき

闇の中で静かに流動する竜のような記憶のかけらを見つけた

わたしの中にあってわたしではないソレだった

もう残りのかけらを探す必要はないと

そっとソレを掬いあげてゆっくりと瞼を開ける

涙はもう枯れていた

光を取り戻して眩しいと瞬きをした

自分探しの旅を続けるわたしは暗闇に置いてきた

わたしは何も知らないし覚えてもいない

忘れていたということは忘れる必要があったからだ

世界のはじまりの役目は終わったんだ

そして暗闇で竜を見つけたわたしと分岐して

これからも記憶を転がしながら生きていくのだろう


自由詩 知らないわたしと知ってるわたし Copyright 薔薇の人 2017-04-20 18:41:25
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