高層ビルの展望室
坂本瞳子
高層ビルの展望室が好きなのは
地上に降り立ち
展望室を見上げ
あんなにも高い所にいたのだと
あそこから美しい景色を眺めたのだと
余韻に浸ることができるからで
高い場所に居続けること自体は
ほんの少し
恐怖感を覚えるくらいのことだ
高速エレベーターに
窮屈な想いと共に閉じ込められ
外国語ばかりでなく
耳慣れない言葉や音が行き交い
さらにはキンと詰まる感覚を回避できず
息を潜め
鼻息を抑え
居心地の悪さを感じることのない
距離を周囲から保つことさえ禁じられ
それでも展望室へとまた向かう
それは地上へ降りてきたときの快感を
何度でも味わいたいからで
否定のしようもなく
抗う術もなく
自らの欲望の赴くままに
何度でも何度でも
貪欲さを剥き出しにして
さらにまた繰り返してしまうのだ
その姿は正に阿呆
ほかになんと呼びようもなく
あれはただの阿呆だ
どんなに足元がふらついても
目眩がしようとも
こめかみに痛みを覚え
渇いている耳に水が詰まったような感覚に襲われ
それでも止めることができない
ただのアホンダラだと
良く分かっている
そしてまた今も向かう
高層ビルの展望室へ