なんで
田中修子
雪の冷たさの青の空
桜のつぼみに咲くなとわめいてる
私を殺していたあのころ
なんで
好きな人は働かなかった 家事もしなかった 絵だけ描いてた
絵は息をのむようなやさしさだったのに
私はよく彼に土下座していた
愛があるなら すべて俺の気に入るとおりに できるだろ
なんで
お母さんは忙しかった 人を癒すことと次世代の子どものため
お父さんも忙しかった お母さんを愛することと次世代の子どものため
おねがいしますこっちを見て あなたたちの子どもは私です というと
お母さんもお父さんも自分のやりたいことがある
といってわらった
なんで
自分を殺そうとすると 白いベッドに集って みんな言ってくれた
あなたはそのままでいいのよ そのままですばらしい存在なのよ と
なので私は自分を殺すことが
必要なことなんだと知った そうでしょう
ね、なんで
あの頃の色のない空を思い出す 夏ですらいつも暗くて灰色で
くたびれた体を動かすために必要だったものが
色も味も感情もすべて
削ぎ落していった
薬を飲みはじめ やっと三日だけまばゆくなった空を覚えている
いまは空は青や金やピンクに色がついていてとてもきれいで
なのにむしょうに いまだなにもかも死んでいる 私がここにいる
それでも息をして歩き続けろ
いつか見た美しい夢を胸にいだいて忘れるなよ
なんで、なんて
ほんとうはいらない 問いも答えもいらない
咲きかけの蕾をおしとどめる
真っ青な冷えた空は きょうはすこし やわいなぁ
まだ生きている幼い私たちよ 殺されるなよ
さぁ、いまだ、咲け。