本当じゃない限り出来事のすべては簡単なことなんだ
ホロウ・シカエルボク





俺の脳天に風穴がふたつあいている、ひとつは自分でどうにか出来る、もうひとつは自分じゃどうにもならない、その穴はお前にどうにかして欲しい、そいつは俺にはどうすることも出来ない穴なんだ、俺に通ずるお前の在り方でこの穴を塞いで欲しい、俺にとって一番厄介なのはあらゆる意味でそいつなんだ…


年代物のモルタルの亀裂に囚われながら数日が過ぎていた、パソコンのディスプレイには拳銃自殺を全世界へ配信した十代の女の死にざま、そいつがリピート再生されている、もちろん、そんなものにたいした効果なんかありはしない、慢性的なショックをごまかすために即効性のショックがあるといいかもなと思っただけさ…女は何度も潤んだ瞳で笑いかけ、拳銃をこめかみに当て、引金をひき、うなだれて動かなくなる、薄い銅線みたいな色の髪が赤すぎる赤に染まってゆく…朝から何度繰り返されたことだろう?ある意味で彼女は、永遠に生き続けることに成功したのだ…なんて、童貞の坊やが大真面目に言いそうなフレーズすら俺は思い浮かべる、俺はおかしくてしょうがないのにクスリともしないで忙しく生きては死に、死んでは生きる女を眺め続けている、正午を少し過ぎたところで、食卓には何かを食べた皿が残っている…ケチャップをなぞったあとがあるから、たぶんそうなんだ―俺は女の髪が汚れていくのを惜しいと思う、ホントだぜ?朝から何度もそう思ったんだ、俺、そういう色の髪、大好きなんだぜ、だってあまり、人間を感じさせないじゃないか…


夕刻になると動画を止めてパソコンを閉じ、肉切場のようなバスルームでシャワーを浴びる、浴びながら、脳天の風穴に38℃のシャワーが雪崩れ込んで、俺の脳味噌を欠片も残さず排水口へと流してくれればいいのにと考える、俺の頭は抜殻になって、誰かがいつか見つけてくれるまでここでシャワーを浴びてふやけていくのさ―排水口に流れ込んだ俺の脳味噌は、この世で最も薄汚れた世界の中で覚醒する、そうして、下水溝に響き渡る大声でこう叫ぶのさ―

「簡単なことだったぜ!頭なんかさっさと抜け出しちまえば良かったんだ‼」

俺はシャワーの湯を止める、湯気を上げる身体をバスタオルで包み、窓の外を静かに塗り潰そうとしている夜のことを考え始めている―



俺の脳天に風穴がふたつあいている、ひとつは自分でどうにか出来る、もうひとつは自分じゃどうにもならない、その穴はお前にどうにかして欲しい、なあ俺、本気でそう思ってるんだぜ……






自由詩 本当じゃない限り出来事のすべては簡単なことなんだ Copyright ホロウ・シカエルボク 2017-03-28 00:44:58
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