graduate
青の群れ
貰った花束をスマートフォンで切り取ったり
取れてしまったボタンを小さな箱にしまいこんだりすること
連なっているはずの港区の海の匂いは
知っている海と少しだけ違うような気がした
平坦につづくはずの、また別の生活への入り口
見慣れた景色から抜け出す電車に乗って
いつのまにか慣れてしまう新しい家の壁紙の匂い
眩しい部屋に生活用品の影ができていくこと
はじまりは意外なほどにあっけなく過ぎるけれど
小さな糸くずを拾い上げて愛おしむことはしない
古い呪いから抜け出して
少しだけ質量が減った自分の身体に新しい糸を巻きつける
地面と肉体を繋ぐ糸
これは永遠の別れではないから
きっとまたどこかで再会することができるけれど
できることとすることとが違うということも
わたしたちは知っている
明け方や、月曜日の雨や、隣の家のドアの音
今日もだれもが生活している
捨てられないもので散らかった部屋も
母親に捨てられてしまう思い出もそこにある
季節の変わり目に少し前に使っていた柔軟剤を思い出したり
まだ開封していないダンボールの中から裁縫箱を取り出すこと
頼りないお守りをたくさん束ねてあげる
祝福をきみに