春の足取り
長崎哲也
春の、ほどけた日溜まりのなかで
そよそよと吹く風の流れを、産毛に感じ
周りから、朝露で蒸れた草木の香りが漂う
ゆらゆらと、揺れる、かげろう
その、見えないところ
沢山の透けて、輪郭のはっきりとしない
触手のようなものが
生まれでようとする命を、奪い合うように
伸びては縮みを、繰り返している
そうした雰囲気のなかで
肌の、むず痒い感覚をおぼえながら
身体の奥から
不可解な衝動が、熱く沸き上がる
そんななか、突然吹き荒れる、風
足早に流れる雲が
春の薄青い空を、消しさっていく
さっきまで感じていた
命の息吹きは、なりを潜め
辺りに、不穏な雰囲気が立ちこめる
まるで、はじめから
何もなかったかのように、静まる
しかしそれは、長くは続かず
日が射し、また元の
暖かい陽だまりが戻ってくる
鳴りを潜めていた命の息吹は
またゆっくりと、周りの温度を確かめながら
触手を伸ばし始める
このようにして、春は
一歩一歩、確かめるようにして
足取りを進めていくのだろう