夜のキリン
ただのみきや

星ひとつ 星ふたつ 静かに尽きる夜

キリンは街をさまよい歩く

まっすぐな線がまだいくつも

引かれていない 幼子の 夢の灯を

螢の群れる木のように 揺らしてそっと

キリンは街をさまよい歩く

アフリカより 硬く冷たい道を

どこまでも四角く区切られた世界を

夜より深い瞳をうるませて

キリンは街をさまよい歩く

その瞳の奥へ奥へと流れ下る

暗い 河面に

もう帰らない灯が遠く遠く消えて往く

キリンはさまよい歩き続けて

巡らされた闇の囲い

静かな水場へ辿り着く

もう見ることをやめてしまったゾウのため

記憶よりも彼方から吹いて来る

大地の こどもたちの 寝息をそっと

枯れ果てた哀しみの耳に ただ無言のまま

やがてゾウは白い砂山が崩れるように

暗い河面へと流れて 消えていった

星ひとつ 星ふたつ 静かに尽きた朝

キリンは夜へと踵を返す

切られた舌が二度と生えることはない




             《夜のキリン:2017年3月18日》










自由詩 夜のキリン Copyright ただのみきや 2017-03-18 19:26:46
notebook Home 戻る  過去 未来