雑草嵐
片野晃司
今日はぴかぴかに舗装されているから、うつぶせのままで背中の上をどんどん歩いていっていいから。夏になればまた雲が次々とやってきて積み重なるから、ふわふわと背中のほうからすこしあたたかくなる。街路樹の根っこの先ががさわさわと指さきに触れて、雨が降れば舗装の割れ目からしっとりとして、胸の奥からふくらんでくる。割れ目からねこじゃらしの穂を出したりひっこめたりして、だれかが落としたコインをこっそりかき集めてみたりして。
手を伸ばせば家々のすきまをぬけて坂道になる。今日はぴかぴかに舗装されているから、買い物の途中だって放浪の途中だって歩いていっていいから、足の裏から指先のほうまでずっと踏んでいっていいから。坂道の先はちいさな丘のてっぺんでいきどまりになる。夏になればまただれかが背中を踏みつけて坂道を登ってくる。雲が次々と折り重なって、やがて雨つぶが降り注いでくる。夏になればまただれかが登ってきて、なだらかな坂道はいきどまりになる。夏になればまただれかが坂道を登ってくる。忘れたい、忘れたい、そういう名前の蔓草でぎゅうぎゅうと息を苦しめるようになにもかも蔽いつくしてしまいたい。
夏になればまた背中がすこしあたたかくなって、寝返りからはじめて伸びををすれば舗装を割って、あくびをすれば草花が噴き出しきて、それからひとあばれして、めちゃめちゃに坂道を打ち砕いて、そうしてなにもかも忘れたことにしておこうかな。あるいは、夏になればまたぴかぴかの舗装の下であたたかくなって、街路樹の根っこの先をさわさわとにぎったままでなんにもしないで寝ちゃおうかな。それからどうでもいい夢でも見ようかな。
舗装の上を歩いていくのは夢の中だから。お店に入って買い物をするのは夢の中だから。夏になればまた雲が次々と覆い被さってくるからバッグも傘も投げ捨てていって、雨つぶの狙い撃ちひとつぶひとつぶを完璧に避けていって、舗装の割れ目から蔓草が暴れ出てきて足首に絡みつこうとするから靴も投げ捨てていって、街路樹は道を塞いで、アスファルトは爆発して粉々になって、そんな攻撃のひとつひとつを完璧に避けていって、けものになって背骨は細長く弓なりに伸びて、雑木林を抜けてくさむらをかきわけていって、手も足もひっつき虫だらけにして、ここは道だったって忘れないって、ずっとずっと忘れないって、そう遠吠えしながら丘の上まで駆けていって、それからほらあなを見つけて丸くなって眠る。
(詩誌hotel第二章39号 2016年11月)