詩絵
ただのみきや
シニイタル(裸の王様の)純白の衣は光を撥ねる
飛沫は激しく辺りに散って眼球も例外ではない
橋は静かに燃えている 赤い闇が河のような朝
盲目に見知らぬ鳥のタクトだけが縄梯子として風に揺蕩い
「握る」という意識のなかシニイタル夢を潰してしまうと
揮発しながら胎児を匂わせる甘い余韻が残った
豊満な光の肢体に自他を区別する殻は剥ぎ取られ
海月のように意識を痺れさせる三月の冷たい熱のままで
鍵穴へと下って往く 時間のうねり捻じれた帯の端っこを
かるく指先で触れる程度 淡いでんりゅう やわらかい針
ぬうようにもぐってはまたあらわれるイト
まるで難破することを望んでいるかのように
小舟は追いかける
シニイタル間際 遠く象が
――意識へ跳ね上り 「 」 再び無意識へ没し――
繰り返し奉納される劇中のイシュメイルとして生き残り
ひとつの焼印を残すための黒々としたバプテスマだった
鍵穴を通るために無形の鍵となって朝の中の夜をくぐり抜ける
見えている全てが頭の中だと思えた時に
血が迸るほど目を閉じて内側から裂けていった
葦のように揺れながらザワザワと毛を太らせて
分類して押し込めるためにではなく
そっけないほど端的でも広すぎる未知へ触れる手がかりとして
星の座標のように言葉を
――碁盤の上
蝶のようにふわりと舞いながら横切った
なにかが
めくるめく明滅と骨より深いところから来るふるえのなかで
唇は濡れたまま 滴ってさえいた
開かれるシカイ
芽吹きすら纏わないまま樹々の礼賛が続く河沿いの道で
刺し止めた青い画布からこぼれ落ちる
シニイタル(裸の王様の)純白の衣はおぼろげに
目に触れられ 止まった象形の動き出す音に
意は息し ゆらめいていた
シニイタル同伴者として
白の失墜――衣の透過 ああクライマックス!
ぬかるんだ大地は半身を飲み下し 残りは風が喰らおう
――――春よ春 シを喰らうシ 王を喰らう地母神よ!
観劇せよ
錯覚の雨が無数の瞳の孤児に慈愛を揺すって見せた
忘れ去られて 腐り 蘇る(裸の王)
シエを纏い演じ続けながら同伴者は目覚めさせる
風と大地へ捧げられたもの 誰かの幻の中に
《詩絵:2017年3月8日》