ホトチンコスープ
末下りょう

野良猫を飼っている
すごく矛盾しているのだけれど事実なので仕方がない

ある日ベランダに出ると
エアコンの室外機のうえに
猫が丸々とおさまっていた

冷蔵庫を漁るもめぼしいものがなく
知人の猫博士に電話して
猫に牛乳はアリかと詰問すると
それはある種のギャンブルですなを反復するので
消費期限ギリギリの明治おいしい牛乳を
半同棲しはじめた彼女の茶碗に入れて
少しばかりチンして
常温っぽくなってから猫の鼻先に差し出すと
信じられない勢いでピチャピチャ飲み干した
窓を開けたままコンビニに行き
キャットフードを買って帰ると
薄い絨毯のうえに寝そべって肛門を舐めていた

野良猫なのか迷い猫なのか
とにかくフレキシブルな猫は
そうしてだんだん我が家に居着いていった

先ほど仕事を終えた彼女が買い物袋を引っ提げて帰宅すると
底冷えする夜の食卓に
クックパッドをみて作ったという
ホトチンコスープという料理を出してくれた

この肉はなんの肉なんだいとたずねると
ナ.イ.ショ.と言ってウィンクされたので
ぼくはホトチンコスープをフーフーして食べた

絨毯に寝そべって肛門を舐めていた猫が
急に起きあがって外に出たがるので
ぼくは窓を開けて猫を出してやった


自由詩 ホトチンコスープ Copyright 末下りょう 2017-03-11 02:20:37
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