春の飛行機
ただのみきや
飛行機がなめらかにすべって往く
そう青くもない春の空
だだっ広くてなにもない
つかみどころのない空気の層を
真っすぐ切っているだけなのに
こんな遠くまで聞こえて来る
――あれは空気の呻き
それとも飛行機の叫びか
つめたくて ぶ厚くて
つかみどころもないくせに
気をぬいたら最後
こっちをバラバラにしかねない
見えない圧力 抵抗を
真一文字に掻っ切って
ああ纏わりつく有象無象の呪縛たち
ちくしょうめ! 火を噴くまでやってやる
飛行機がなめらかにすべって往く
もう青くない春の空
哀しいくらいになにもない
つめたい雲のそのまた向こう
――何処へ?
――さあ どこかへ
《春の飛行機:2017年3月5日》