目(10時24分〜32分,3月4日)
はて
白と茶 誰もいない部屋のカーテンは開けられて 南向きの窓から差
し込む冬の低い太陽の明かりでとても明るい 雑然と散らばった請求
書、契約書、スーツ、ネクタイ、タオル、ビニール袋、文庫本、楽譜、
ノート、紙 広げられたままの布団の上にはカバーを外した掛け布団
が輝きを持つ裸婦像のように横たわっている 照り返る天井に吊り上
げられた電気の笠の影 車の走る音が近づいて離れていく 電車の
音は一気に通り過ぎる 誰かの家の排水が流された音 何かを打ち撞
ける音 電動ドライバーが回る音 唯一部屋の内で音があるのは時計
のみ ベランダでは干された布団カバーやシャツが肩を揺らしている
その奥に見えるアパートの屋根には西向きに取り付けられた丸いアン
テナと右に左に首を動かす雀が居座っている