初めての影送り
梓ゆい

靴を鳴らして歩く田んぼの畦道
やんちゃに暴れる子犬のリードを父が必死に手繰り寄せる
寒さに負けまいと白い息を吐いて私は走り出す
気づくと遥か後ろで手を振る父が私を呼んでいた。

遠くに見える野焼きの煙が
枝ばかりの林を通り抜けて綿雲に混じりあえば
空に送った私の影を追いかけて捕まえて食べ始める。
広い空は今私だけの遊び場。
初めてのかげおくりが楽しくて父の事を忘れそうになった。

畦道でタバコをふかしはじめた父の足元で
垂れた耳を振り回して子犬がじゃれてまとわりつけば
少し困った顔つきで茶色と白色の頭をなで回す。

そろそろ帰ってお風呂に入ろう。

いつもより赤く染まり始めた西側の空を眺めて
父はもう一度私を呼んだ。


自由詩 初めての影送り Copyright 梓ゆい 2017-03-06 01:47:44
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