生きた証
梓ゆい

高田馬場駅から徒歩10分
父の居たオフィスは今でもそこにある。
建物を眺めて
私は買ったばかりの眼鏡を太陽にかざす。
二つのレンズは太陽の光りをいっぱい集めて
私の全身に降り注いだ。

手を上げて横断歩道を渡る小学生の目は
眼鏡越しに友達を見て笑う。
すぐ後ろを通る初老の男性は
手元の地図を見直して
しっかりとした足取りで駅を目指した。

父の手の中を通り
誰かの元へと嫁いだ一本の眼鏡たち。
それらとどこかで今日も明日もすれ違う。

建物に向かいそっと手を合わせ
夕暮れの道をまた
一人ぼっちで家へと帰る。




自由詩 生きた証 Copyright 梓ゆい 2017-03-04 22:54:57
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