優しい雨
HAL

倦怠感を憶えて
窓を開ける

細い絹糸のような
雨がいつのまにか
降っている

雨は悲しみに
余りにも似ている
だから私は
雨が好きなのだろう
だから私は
悲しみが好きなのだろう

いいんじゃないだろうか
悲しみを幸福よりも
愛する者がいても

生はどの生であっても
悲しみを背負っているのだから

生はほとんどが
悲しみのなかを往く途なのだから

そのために涙はあるんじゃないか
食いしばる歯があるんじゃないか
噛み締める唇があるんじゃないか
握りしめる拳があるんじゃないか

悲しみを知らない希望は
すべて贋物にしか過ぎない
だから誰もが真の希望を求め
真の幸福を手に入れたいと
望むのではないか

それを私が語っても
咎を受ける理由は
ないだろう
たとえ誰もそれを
肯定しないとしても

もちろん悲しみにも
大きなものも
小さなものもある
永く終わらないものもある
明日には忘れ去れるものもある

できるなら
誰もが小さな悲しみだけで
終わって欲しいと思う

しかし残念だけど
誰の生にも大きな悲しみは
訪れるのを私は視てきたし

私自身にも
その大きな悲しみは
いつも約束もなしに
やってきた

窓を閉める
ボレロの
はじまりのような雨音の
微かな旋律も聴こえず
優しい絹糸も消える

そして私に
何か大事なものを
失ったような
喪失感が現れてくる


自由詩 優しい雨 Copyright HAL 2017-03-04 09:11:55
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