優しい雨
HAL
倦怠感を憶えて
窓を開ける
細い絹糸のような
雨がいつのまにか
降っている
雨は悲しみに
余りにも似ている
だから私は
雨が好きなのだろう
だから私は
悲しみが好きなのだろう
いいんじゃないだろうか
悲しみを幸福よりも
愛する者がいても
生はどの生であっても
悲しみを背負っているのだから
生はほとんどが
悲しみのなかを往く途なのだから
そのために涙はあるんじゃないか
食いしばる歯があるんじゃないか
噛み締める唇があるんじゃないか
握りしめる拳があるんじゃないか
悲しみを知らない希望は
すべて贋物にしか過ぎない
だから誰もが真の希望を求め
真の幸福を手に入れたいと
望むのではないか
それを私が語っても
咎を受ける理由は
ないだろう
たとえ誰もそれを
肯定しないとしても
もちろん悲しみにも
大きなものも
小さなものもある
永く終わらないものもある
明日には忘れ去れるものもある
できるなら
誰もが小さな悲しみだけで
終わって欲しいと思う
しかし残念だけど
誰の生にも大きな悲しみは
訪れるのを私は視てきたし
私自身にも
その大きな悲しみは
いつも約束もなしに
やってきた
窓を閉める
ボレロの
はじまりのような雨音の
微かな旋律も聴こえず
優しい絹糸も消える
そして私に
何か大事なものを
失ったような
喪失感が現れてくる