標本
日々野いずる

湿った空気に撫ぜられて
わたくしの脳内が段々と湿気を喰らい
破裂寸前な頭を持って
ただ立ち尽くすこのひとつの像となっている

ぷかりと浮いた気泡に
呼気に少し湿り気を混ぜ込んで
重い頭を軽くしようとするのだけど
いつまでも軽くならない

わたくしの足
わたくしの手
全てが重石になり
ここに縫い止められる
虫ピンに飾られた一つの標本
あれは美しいものだろうと誰かが言い
あれはおぞましいものだと誰かが言う
サンプリングされた体が並べられている
ただその個体というだけの個性を認められて

美しく悲しいその標本を携えて
汽車に揺られる窓際
晴れた空の光に照らされながら
一つ標本を握りつぶして
風に乗せた


自由詩 標本 Copyright 日々野いずる 2017-03-01 23:11:55
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