悲しみの展開図
ただのみきや
大きな箱だった
膝を抱えてすっぽり隠れられるほど
そんな立方体を展開図にして
悲しみの正体や理由
いちいち解説してくれるけど
「まったくなぐさめにならない」 そう言うと
《なぐさめる気などサラサラない》 と返してくる
工作道具を持ち出して
先生みたいに偉そうに指図する
《そこハサミで切って そこテープ貼って―― 》
《切って/貼って/切って/貼って/斬った/張った/斬った/張った/ 》
小学生じゃあるまいし
小学生から苦手だったけど
「面倒くさい あんたやれば」
《自分でやらなきゃ意味ないだろう》
《その辺のことば全部マジックで黒く塗りつぶして あとそこのシミも》
《そことここ こんなふうに書き込んで―― 》
《汚い字だな……ペン字でも習ったらどうだ》
――うるさい
「キーを叩けばJIS級だよ! 」
《じゃあ仕上げだ 大好きなものを三つ選べ そして
その絵を空いているスペースいっぱいに描いて描いて描きまくれ》
絵は苦手だけど
まあ いいか
雲だな ひとつ目は ずっと眺めても飽きないから
次はリンゴ こどもの頃から大好き
真っ赤なやつを丸かじりするのが最高に幸せ
最後は 猫 かな 一度も飼ったことないけど
アパートで育ったし 大人になっても結局アパートだから
――よし できた
《――なんで太陽から棒が出てるんだ? 》
「リンゴ! それは」
《雲とリンゴは分かるけど どうして悪魔なんか…… 》
「悪魔じゃねえ猫だよバカ! 」
《――猫? どう見ても地獄の鬼だろう》
「ネコ!ネコ!ネコ!ネコ!ネコだよブタ野郎! 」
四の五の言っているあいだに作業は終わり
展開されたものを もう一度 立体にする
悲しみの箱 少しだけ 小さくなっていた
まだ両手で抱えるほどの大きさだけど
もう中に隠れることはできないようだ
雑な切り口やテープの痕の不細工さが目立ったが
ところどころで
大好きなものたちが励ましてくれていた
不器用にだけど
生きて来れたのだ
そう思うとなんか笑えて
スンときた
「ねえ もっと悲しみ小さくならないの? 」
《悲しみだって大切にしろ》
私のフィールドに春はまだ来ない
だけど冬将軍だってもうヨボヨボなんだ
重ねたものを一枚ぬいでみた
ここちよい冷やかさが 頬を
張るような 撫でるような
《悲しみの展開図:2017年2月28日》