少年
呼無木
夜半から雨が降ると
坂は魂の匂いで蒸せ返る
幾百匹のカエルの白い腹
幾百匹の紫にふやけたミミズの肉片
幾百匹の忘れられた肢体
立ち昇る新鮮な死の匂い
湿っぽい肉の匂い
胸いっぱいに吸い込みながら 朝
わたしは坂を下る
この古い坂はわたしの通学路なのだ
幾百匹のカエルの白い腹
幾百匹の紫にふやけたミミズの肉片
幾百匹の忘れられた肢体
彼らの抜け殻を踏まぬように
それがわたしの日課である
けれど 時折通り過ぎる車が
彼らの破片をぷちぷちぷち
ぷちぷちっ
幾百匹のカエルの白い腹
幾百匹の紫にふやけたミミズの肉片
幾百匹の忘れられた肢体
心なしかすっぱい匂いもするのは
そのせいなのだろうか
ひょっとしたら彼らと同じように
一昨年死んだじいちゃんも
帰ってこない犬のマリも
この坂のどこかで
雨水に打ち揚げられているような
気がして