evolution/月の下で舞う鱗粉

evolution/月の下で舞う鱗粉

薄い雲の向こう

見え隠れする月の下

進化の光を目指して

懸命に鱗粉を振り撒き

飛びつづける 一匹の蛾

暗い海の波打つ音が

「お前に止まり木はあるのか」と脅す

その小さな生き物は答える代わりに小さな羽根を何度もバタつかせて

昔に海猫から聞いた「進化の光の話」を思い出していた

月が沈む前にその光の発する大地に辿りつけた者は

自らが望む姿に進化することができる

月の光は彼にとって最後の希望だった

天敵に襲われて

消えていった仲間の顔を思い浮かべる度に

彼は自らの力の無さを嘆いていた

どのくらい飛んだだろう?

少しの風でバランスを崩される
その小さな彼は羽根が恨めしかった

もう少し もう少しと
自らに言い聞かせる間にも月は沈んでいく

空が白みだして

夜明けを迎えようとする頃

ついに彼は力尽き まだ薄暗い海へと真っ逆さまに落ちていく

朦朧とする意識

落下する最中に

彼は一本の流木を見つけて

それにしがみつくようにして着地する

今日も敗北だった...

目の前で沈んでいく月を
流木の上から薄目で見送りながら

悔しさの中で彼は眠る

「明日こそは...」寝言でそう呟く
彼はまだ気付かない

流木に映る彼の羽根の影が
昨日より少しだけ大きくなっていることに...


自由詩 evolution/月の下で舞う鱗粉 Copyright  2017-02-27 21:10:37
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