くにの記憶
白島真
水になってひそむ
死んだ者たちの
通
(
とお
)
ったこのほそい水系に
官能の色彩はすでにない
光りの粒子のように時は流れ
序章のように生誕の時は流れ
星が囲んだ戦場につめたい炎の舌がみえる
水鏡に映るか くにの記憶
気おくれした日の腕時計 秒の歯車が
ビルの狭間 逆さに回転しはじめた
地鎮祭を終えた人々が
高層硝子に反照された夕暮れを帰っていく
鎮まったはずもない石、土たちが
全ての感官を耳にしてせり上がってくる
わたしの水位が結界にあふれ
ものの形がみえなくなる
そのひとは
額に
鏃
(
やじり
)
を突き刺し
武具をざはざは鳴らせて
交差点の青い翳を雲のように渡っていった
曾祖父やそのまた曾祖父の
青白い手がしたした伸びて
みえない先行きを追い やがてすいと消えた
わたしに似た苦々しい魂は
千年を また
この雲
涸
(
が
)
れにひそむ
自由詩
くにの記憶
Copyright
白島真
2017-02-26 17:38:03
縦