クレマチス
嘉野千尋

  痛みを痛みとして見つめながら
  あなたは眼差しを地には与えず
  自分だけの痛みだと言って、
  誰かに分け与えることさえしなかった

  
  花びらは凛として
  項垂れることへの恐れからは遠いところで
  外へ向かって開いていました
  今もかわらず、わたしの眼差しは内へと注がれたままです


  苦しみを乞い、
  裸足で歩いていくことを望みました
  それでも飲み込みきれない感情が取り残されていくことを
  わたしもすでに知りました
  

  騒がしさを嫌って目を瞑る愚かな日々にも
  指先に鋭く感じる光のように
  知らぬ間に積み重なりながら
  いつか崩れ去る一瞬を待ち構えているものが確かにあり


  苦しみを、苦しみと呼ばず
  痛みを、痛みと認めず
  ただ孤独に満たされる一瞬にだけ、
  悲しみに似た穏やかさの中にあなたの姿があったのです


  クレマチスの花でした


  わたしも、あなたも
  日差しに焼かれながら影を投げる
  一輪のクレマチスの花でした





自由詩 クレマチス Copyright 嘉野千尋 2005-03-07 11:37:04
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