望遠カメラ
為平 澪

高級カタログで見た望遠カメラ
小田急線で持っている人を見かけて
少しだけ羨ましかった

ある日 望遠カメラをくれるという人が現れて
私は有頂天で貰い受けた

ピントの合わせ方も手つきも 儘ならなくて
もどかしいだけの品物だったけど
ずっしり重いボディが程よく 腕に馴染むころ
女郎蜘蛛たちの罠にかかった獲物の言い訳や
背丈を競い合うセイタカアワダチソウの企みや
顔のない都会の上面くらいには
ピントを合わせられるようになった

私は望遠レンズが見せる景色に夢中になった
見えなかったもの、知らなかったこと、
美しいものと、汚いもの、
何もかもが新鮮で 私の目はレンズが映しだす
正義の言いなりになった

もっと高い所へ、もっと高い所から、もっとすごい高みへと
焦点を合わせようとした時 足元が何かにつまずいた

  ─ 老いた母の死体だった

壊れたカメラを抱いて
ピントのずれた頭と焦点の合わない目をした私が
瞳孔を開いたままの母の目に 写し出されていた


自由詩 望遠カメラ Copyright 為平 澪 2017-02-23 22:25:12
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