ただのみきや

馴染みの店
昔よく通った
ご機嫌なわたしがいる
酔いもほどよくまわり饒舌な
周囲の客も常連で顔なじみのよう
隣には友人が
顔はよく見えない――とにかく古い友人が
わたしは羽振りが良く
何人かに酒を勧め
得意になって話題を振りまいた
「価値のないものに金を払うのはまっぴら!
「無駄なことに時間を使うのもね
「愛するに値しない人間を愛するのはおかしいだろう
「赦す? なんのために
友人は黙ってわたしを見ていた
微笑んでいるようでもあり
悲しんでいるようでもあり
険しくはないが
臆してもいなかった
わたしは友の同意を求め彼の肩に手を置いて
言った
「価値のない連中のために犠牲を払ってどうする?
「やめろやめろ無駄なんだから
友人は答えた
「できないね それだけは
彼は自分の手をわたし手にしっかり重ねると
言った
「もしそんなことをしたら
「きみとの友情を終わりにしなければならない
そうして立ち上がると
店から出て行った
すると店の灯りがスーっと落ちて
冷たい空気が辺りを包み――

――目が覚めた 夜明け前
布団を首の辺りへ手繰り寄せ
あの手の
重ねられた手の
感触がまだ
深い傷痕が残るあの手の



              《手:2017年2月18日》









自由詩Copyright ただのみきや 2017-02-18 18:24:48
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