夕暮れの あんドーナツ
藤鈴呼
砂糖をまぶしただけでは飽き足らない
ただの揚げでも駄目だ
それは 魚くさいどころか
水くさいくらいの
懐かしさに 満ちていて
目を閉じても 浮かんで来る程
青空に 近い 雲のような 存在だった
中身なら
出来るだけ 詰まっているのが 望みだろう
頭だって 然り
だけど 口ずさめば ハミングだと
認められる わけでは ない
そういうことばかり 口走っては
窘められた
手で制されてしまえば
向こう岸へ 渡ることなど 出来ないから
すり抜けようとして 空間を 探す
長いばかりの 葦の 向こう側
そっと伸ばすは 左足
どうして?
うん、私、右利きだから
何時だって 逃げられるように
右側は 残して置くの
自分の 一番 近い場所
それは 真下
でもね、踏み出さないと、歩けないこと
知って いるから
水溜りの冷たさが 指先に浸透して
仕方が無いの
長靴だから
ゴム製だから
どんなに長いジッパーのついた靴底よりも
安心できるって
靴屋さんは 教えてくれたのに
一歩ちゃぷりと漬けただけで
こんなにも 痺れるのよ
ココロがね
コトンって 音を立てて
崩れ落ちるような 感覚
ねえ あなたに 解るかな
そう言いながら頬張る あんドーナツが
やけに 甘かった
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