紅の裏切り者
藤鈴呼


流れた血の意味を考える
原因ならば幾つも有る
素手で硝子を強く持ったからだ
悔しくて握りしめた拳の先に
切っ先の鋭い物体が飛び出していたからだ
或いは その涙の色が
部屋の赤玉に 呼応したのかも 知れぬ

時が流れて
言う事が転がる相手を本気で恨むのは
実に下らないことだと考えた
それは 時間の無駄だから
時計の針ごと 排除してしまおうと
鼓動が聞こえぬ角度に 枕を持ち替える

あの日見た夢には
可愛らしさの欠片も存在していなかったから
驚くくらい冷静に瞳を閉じた瞬間を
思い出してしまうくらい
酷く青い雪が 視界を染めていたけれど
振り返る余裕すら なかったのだと 気付く

残り物を平らげないと
次の皿は 出て来ないのです
スプーンとフォークが煌めいて
日光をも反射すると
何かと健康的な錯覚は受けますが
錯覚は どこまで進んでも 幻覚
幻惑は どこまで嘆いても 味覚には
叶わないのです

そのイメージを作り上げる為に
嗅覚を働かせてみましたが
アンテナ一本立てるのを
どうやら忘れてしまったみたい
微々たる力を振り絞って 叫びます
その電話番号は ワタクシのものだけど
ダイヤル式の黒電話は
もう我が家には ないんだってこと

今日も 何かしらの音が響き
私は呼気荒く 叫ぶ代わりに
この子機を 握りしめる
ハイハットが合わさる角度で拍手をすると
スッと傷跡が 消えてしまうかのような幻想
それだけを 握りしめながら

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自由詩 紅の裏切り者 Copyright 藤鈴呼 2017-02-15 23:26:56
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