Cutie Dull
少年(しょーや)






「明日はとっておきのを作るから、ちゃんと全部食べてね」





やってきました ついにきました
俺とお前にとって初めての2.14
甘くほろ苦いチョコをこの俺に
高鳴る想い 言わずとも双方に
まぁ、いつもどこか抜けてるお前だけど今日は期待抱くよ


『どんなチョコ作ってくれるの?』
『それは渡すまで教えられないよ』


少しでも情報仕入れたくて何度も何度もメールを送信
でもそのたび『教えない<`~´>』って言われるし
これじゃまるでイチャついてる交信
ちょっと待った! きっとこれまさか俺への秘め事?! よからぬ状況?!?!
もうすぐ一年経つのにいまさら隠し事はなしでしょーっ!!


『どうしよっかな……しょうがないぁ……。
 ヒント其の壱!“ハート型”。
 これ以上は教えないからね。もうすぐ出来るはずだからじゃあね』


どんなイビツなハートでも全部残さず食べてやっからよ
…なーんて、俺の頬はもう真赤だよ
ってか、ヒント其の弐からねーのかよww


帰り道 バス停の前
「はいこれっ! みんながいる前だと恥ずかしいからやっと渡せたよ~。
 今はまだ開けないでね。帰ってゆっくり食べてね」


小さな紙袋から出てきた青い包み紙
“いつもありがとう”のメッセージカード


……いや、ちょっとこれは無いわ
包み紙開けた途端 バタンと文字通り崩れ落ちる
朽ちる 今までの満ちる思い、期待、歓喜、感謝
出てきたのは見覚えのあるパッケージ
食べる気にすらなんねーし
こないだのバイト帰り、コンビニに立ち寄り
何気なく買ったアーモンドチョコレート
それと同じ物が今まさにここに 何故に? 誰に?? 俺に?! so funny


おい…ちょっと待ってくれ……これだけは勘弁だ 残念な結果に終わったな
俺が食いたいのはお前の手作りチョコ 
それが値札付いた手作りってのはちょっとあんまりだ……


脳裏浮かんだどん詰まりの行動 聴きなれた待ちうた ルルル
途切れるコール音 片耳でロックオン
「ごめんっ!! 私が渡したのパパにあげるために買ったチョコだった…」



思い出すよ あの時のこと
お前が作ってくれたのは大きなハートの形をしたチョコケーキ
「パパが全部食べちゃった」って何度も謝ってたよな
あれからもう何年も経ち、お前は俺と同じ名字を名乗るようになって沢山の祝福を浴びた
相も変わらず 愛は変わらず 間抜けで大切な人
少し泣いたのは花嫁への祝いの挨拶
お前のママの最後の言葉が焼きついて、離れない


「昔はあんなに甘えんぼだったあなたが今ではドレス着て
 大勢の人達にこんなに沢山『おめでとう』を貰えるなんてね。
 本当におめでとう。素敵な人を選んだね。
 あなたは覚えていますか?いつかの時のバレンタイン。
 間違ってお父さんに渡しちゃって、あなたは随分泣いちゃって。
 でも、あの時母さんわかったの。誰かのために頑張るあなたを。
 いつもドタバタばっかで頼りなかったあなたが、こんなに成長していたなんて。
 私何でこんな大切な事に気付かなかったんだろうって。ちょっと情けなくて…。
 だからあのチョコケーキは失敗じゃない。価値あるものに違いない。
 自信を持っていいんだよ。間違えてもいいんだよ。焦らなくてもいいんだよ。
 あなたの速さで歩きなさい。二人仲良くずっと生きなさい。
 今度はちゃんと作ってあげてね。大切な人のためのチョコケーキ」





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cutie = 可愛らしい、可愛い子ちゃん
dull = (感覚、頭などが)鈍い、動作がのろい、(知識が)抜けている
Cutie Dull = 鈍い可愛い子ちゃん
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自由詩 Cutie Dull Copyright 少年(しょーや) 2017-02-14 21:43:39
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