ボトルシップ
本田憲嵩

赤茶けたカーテンを捲って覗く
窓のむこうの電柱
電球の切れかかった外灯が
ぱちぱちと
青白く点滅しているのを きみはぼんやりと眺めている
けれども そのように
いずれパチンと爆ぜて
途切れてしまうようなことからは
直視をこばんで
きみはいつまでも逃避をしつづけている


きみの部屋のなかには
そこらじゅうに
無数のちいさなボトルシップが積み上げられていて


きょうも
カフェイン依存症のきみの
白いコーヒーカップの底には
沈殿して
固まったままの茶色い粉末が
くすんだ匂いで「停滞」をつねに暗示している
きみは机の上のネットにつないだPCのまえで
頬杖をつきながら
お客の来ない占い師みたいに
ヒマを持てあましている
水晶体、
ではなく
液晶体から見とおす世界にも
いい加減マヒしながら


もうどうしようもなくなって
やがて詩想の断片のひとつひとつを
部品のように
空っぽのミニチュアボトルのなかに
詰め込んでゆく――


もうすっかり温くなっている
何杯目かのインスタントの安コーヒー
散らかった部屋のなかに
無数に積み上げられてゆく
売り物にならないちいさなボトルシップと
そんな日々



自由詩 ボトルシップ Copyright 本田憲嵩 2017-02-12 17:34:05
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