もうすぐ桜に会える
水宮うみ
春が来たら、十年前の僕らの入学式を見に行こう
鳥の声や風の音が音楽そのものだった、あの場所へ
桜の花が舞うなかで、話をしよう
桜を見ることができなかった春の話を君としよう
なんにも考えていなかったあの頃を思い出し、
バカみたいだったねと一緒に笑いあう、そんな一日だっていずれはお話になる
桜の木は眼があるかのように世界を見渡し、口があるかのように季節を歌う
僕らは話す。言葉を恐れずに
まだ生きるのに理由がいらなかったときに、桜を見に行こうと約束したのを覚えている
僕らがいなくなっても、この約束はなくなりはしない
この約束を知る者がいなくなるだけだ
春にしか行けないあの場所で、桜は咲き誇る
一年中、春になったらいい。刹那が咲き、刹那が散る、儚い春のなかで一人歩く
空から桜が降ってくる。誰かにとって、そこには悲しみも喜びもなく、ただ時間が流れていくだけの普通の一日だ
それでも、僕は新しい春を待つ。何かが始まることを、夢見て暮らす
壊れそうな現実のなか、息をする度に僕らは、少しずつ桜色に染まっていく